食物アレルギーと向き合う人々
食物アレルギー対応の全員給食を実現した市川保育園 vol.2(保護者 園長編)
食物アレルギーの患者は5歳以下の乳幼児が80%近くを占め、1歳に満たない子どもで10人に1人が発症するとも言われています。そんな子どもたちが集団生活の中で初めて「食べる」ことを経験する場、それが給食です。 それぞれの保育園・幼稚園で食物アレルギー対応に奮闘されていますが、課題が多いようです。 そんな中、千葉県にある市川保育園は、特定原材料の卵・乳・小麦を抜いた全員給食を実現させました。どのようにして実現に至ったのか、保護者のかわいさんと実現を主導した齋藤園長にお話を伺いました。
せいしろうくんパパ
かわいさん
市川保育園
齋藤園長
Q.食物アレルギーを持つ子どもの親として、保育園の給食は気になりますよね?
かわいさん(保護者):うちの子は、卵・小麦・えび・かにのアレルギーを持っています。
入園した当時はまだ代替食での対応でした。それでも、毎月栄養士さんが個別に面談をしてくれて、食べられないものがあったら似たようなものを代わりに出してくれる、何を出すかもすべて説明してくれていたので、とても信頼していました。
家で食べていたニッポンハムの米粉パンが給食に使われていたのも嬉しかったですね。あと、うちの子は微量でも症状が出るので気になっていた醤油も、小麦が入っていないものに代えるなどの対応までしてくれました。
Q.では、食物アレルギー対応給食になって驚かれたのでは?
かわいさん(保護者):聞いた時は、凄いな・・・って。普通はそこまでできないと思うのですが。
ずっと信頼していましたが、代替食の時は頭のどこかに、心配や不安の種はあったんです。人がすることに絶対はないし、もし何かあったらと。でも、その心配もまったくなくなりました。
個人的には、食材費が上がって大変になったりしないかな?なんて心配はしましたけど(笑)。
Q.食物アレルギーを持つ子どもの親として、保育園の給食は気になりますよね?
齋藤園長:私は24年前にこの業界に入りましたが、その頃はまだ食物アレルギーを持つ子は目立たない数でした。
ここ10年くらいで増えてきている印象はあります。
昔は保育園でみんなが同じものを食べていたはずだったのに、牛乳が飲めないとか、卵が食べられないお子さんが増えてきて、職員の作業が複雑化してきました。
でも、食物アレルギー対応の全員給食に取り組んだ一番のきっかけは、やはり2012年に調布市の小学校給食で起きた誤食のニュースを見たことが大きいですね。
Q.園長はどうしてこの取り組みを実施されたのですか?
齋藤園長:一番は、子どもたちの命を守ることですが、やっぱりみんなで同じ給食を食べたいという願いですね。
ずっと代替食で対応をしてきましたが、給食室の職員さんも保育士さんもちょっと間違えただけで命にかかわる事故につながってしまう。お子さんを預ける保護者側も、事故があるかもしれないと不安になってしまう。総合的に判断して、物事の考え方を変えなきゃいけないと思いました。
Q.かわいさんの心配するような、費用面への影響はありましたか?
齋藤園長:もちろん、変更するときには予算も見直しました。
しかし、子どもの命はお金に変えられないので、多少のコスト高になったとしても子どもの命を守るべきだと思っています。
そんなことを言っていますが、実は地域の皆様の協力も大きくて。食材を納品してくれる地域の商店も、子どもたちのために安定的に美味しいものを安く提供してくれているんです。保育園は、地域とのつながりも大事なんですよ。
Q.園長から見て、食物アレルギー対応の全員給食に変えてよかったことは?
齋藤園長:一つ目は、子どもたちがみんな一緒の給食を食べられること。
うちの保育園は、給食室ではなく、各保育室でご飯を炊いて、みんなで分けて食べています。私が田舎で育ったこともあり、親戚中が集まってみんなで同じごはんを食べることが当たり前でした。「同じ釜の飯を食う」じゃないですが、それでみんなが家族になって、仲間になる。そういう環境にしたかったんです。保育園の歴史上、保育園には給食室がないといけないというのも、そういう意味のひとつなのかなと思っています。
二つ目は、個人的な話ですが、マイナス15kgのダイエットに成功しました(笑)。
食物アレルギー対応給食で、和食が中心になりました。すごくヘルシーですよね。国も推奨しはじめている和食のおかげで健康的な食事になったのが良かったなと思いますね。
Q.パンも米粉パンに変わりましたが、味はいかがですか?
ニッポンハムさんの米粉パンはとてもモチモチしていて、焼いても、焼かなくてもとても美味しく食べられます。
また切り方によっては掴んで食べる時期になったお子さんが、食べるのにもいいですよね。おやつにも使いやすいですし、すごくいい食材だと思います。
Q.保護者の観点で、もっと世の中こうなってほしい!というのはありますか?
かわいさん(保護者):不安なのが、卒園後のことです。保育園ではここまできめこまやかに対応してもらっているんですが、小学校はなかなか難しいようで、おそらくですが、お弁当を持参することになるだろうと予想しています。
小学校、中学校でも保育園同様の対応をしてくれると、みんなで同じごはんを食べることができるのですが、それにはまだ時間がかかるんでしょうね。
Q.園長はこれからの食物アレルギー対応について思うことはありますか?
齋藤園長:給食って、おそらく戦中戦後の食糧難時代に、子どもたちに食べさせる目的で始まったと思うんです。
しかし、現在は意味合いがちょっと変わっていますよね。今は飽食の時代で子どもたちは色々なものが食べられるし、それはそれで幸せです。だけど、そんな時代だからこそ、食を大切にしなきゃいけないと思います。
私たちは食物アレルギー対応の全員給食に取り組みましたが、これは「食」を大切にする中でおこなったひとつにすぎません。食物アレルギー対応給食だけに注目しているのではなく、食事を大事にすることを伝えていくことで、給食や食の大切さが伝わるといいなと思っています。
様々な条件で、なかなか第一歩を踏み出せない場合もあるとは思うのですけれども、保育園の原点に立ち返れば、子どもたちが安全で安心して生活が出来るということが一番大事です。
子どもたちにとって何が一番いいのかを皆で考えた結果が、食物アレルギー対応の全員給食に繋がったのだと思います。これからも子どもたちのことを第一に考えて、より良い結果になればいいなと思います。
取材日 2017年11月13日
食物アレルギー初心者向け、まず押さえておきたい基礎情報