●食物アレルギーについて
食物アレルギーとは

食物アレルギーとはどのようなものなのか?原因やメカニズムなど基礎的な情報をまとめたページです。

国立研究開発法人
 国立成育医療研究センター
 大矢 幸弘先生 監修

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食物アレルギーとは

私たちの体には、有害な細菌やウイルスなどの病原体から体を守る「免疫」という働きがあります。食物アレルギーはこの「免疫」が本来無害なはずの食べ物に対して過敏に反応してしまうようになった状態のことをいいます。
通常、食べ物は異物として認識しないようにする仕組みが働き、免疫反応をおこさずに栄養として吸収する事が出来るのですが、免疫反応を調整する仕組みに問題があると、食べ物を異物として認識してしまうことがあります。それによって起こるアレルギー反応が「食物アレルギー」です。

異物として認識された食べ物成分(アレルゲン)を排除するために、アレルギー反応が起こり、また腸から吸収されたアレルゲンが血液にのって全身に運ばれるため、眼・鼻・のど・肺・皮膚・腸などでさまざまな症状が現われます。
食物アレルギーは、食べ物を食べた時だけでなく、触ったり、吸い込んだり注射として体内に入ったりした時にも起こります。

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IgE抗体とは

食物アレルギーは主としてIgE抗体によって引き起こされます。
食物アレルギーは、一部IgE抗体が関与しない反応もありますが、ほとんどの場合IgE抗体が関与するIgE依存性アレルギー反応です。

IgE依存性アレルギー反応とは
食べた後に、皮膚症状(じんま疹など)・咳・呼吸困難・消化器症状などが起きる即時型反応です。
多くの場合、食後2時間以内に発症します。
非IgE依存性アレルギー反応
頻度は少ないがIgE抗体を介さない食物アレルギーもあります。新生児・乳児消化管アレルギーがその例です。

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食物アレルギー発症のメカニズム

食物アレルギーはどのようにして起こるのでしょうか。発症のメカニズムついて詳しく解説します。

多くの食物アレルギーはアレルゲンに対して作られたIgE抗体が働いて起こります。食物のように、体に必要でこそあれ無害なタンパク質に対しては、消化管や免疫の何段階もの防御の仕組みが働いて、無用なIgE抗体を作らないように調節されていますが、こうした仕組みが体質的に弱かったり、未熟だったりすると、 IgE抗体が作られてしまい、食物アレルギーが発症すると考えられます。

食物アレルギーの発症のメカニズム

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原因物質が体内に入る

原因物質が体内に入る

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特異的IgE抗体が産生させる

特異的IgE抗体が産生させる

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マスト細胞・好塩基球にIgE抗体が結合

マスト細胞・好塩基球にIgE抗体が結合

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マスト細胞や好塩基球からヒスタミンやロイコトリエンが放出される

マスト細胞や好塩基球からヒスタミンやロイコトリエンが放出される。アレルゲンはマスト細胞や好塩基球上に乗っているIgE抗体と、図のように橋のように結合することが、これらの細胞を活性化するのに必要です。この現象を架橋と呼びます。

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アレルギー症状が出る

アレルギー症状が出る

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食物アレルギーの特殊なタイプ

いずれもIgE抗体が関与しています。

口腔アレルギー症候群
食べ物を食べると、口の中のイガイガ感、ピリピリ感、口周囲のじんま疹などを生じることがあります。これを「口腔アレルギー症候群」といいます。主として、野菜や果物が原因となり、花粉症を合併することが特徴です。野菜や果物のアレルゲンは、熱や加工処理によって壊れやすいため、これらの加熱された加工品や市販のジュースでは症状を起こさない場合があります。
しかし、一気に多量に食べると、口腔だけではなく、他の部位にも強い症状が誘発される場合があります。
食物依存性運動誘発アナフィラキシー*
食べただけ、あるいは、運動だけでは症状は発症せず、食後に運動が加わるとアナフィラキシーが起こる、比較的まれな食物アレルギーの一種です。原因食物として小麦製品と甲殻類が多く、運動は比較的激しい運動が引き金となることが多いのですが、散歩など軽い運動でも誘発されることがあります。
ラテックス‐フルーツ症候群
ラテックスアレルギーに果物アレルギーを合併する場合「ラテックス‐フルーツ症候群」と呼びます。ラテックスアレルギー患者の約5割がクリ、バナナ、キウイ、アボカドなどに対するアレルギーを呈します。これらは、ラテックスと果物のそれぞれのアレルゲンの間に交差抗原性があるせいです。

*アナフィラキシーについてはこちらをご覧ください。

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食物アレルギーの原因食物

食物アレルギーを引き起こすアレルゲン食品として卵、牛乳、小麦の割合が多くなっています。その他、さばやいかなどの魚介類、バナナやキウイフルーツなどのフルーツ、大豆、ピーナッツ、そばなどがあります。これらのアレルゲン食品は年齢によって割合が異なります。また年齢と共に原因食物は変化していきます。

原因食物の割合

原因食材の割合

(アレルギー 65(7) 942-946. 2016(平28) 図2より一部改変)

年齢別 主な原因食物

新規発症の原因食物(N=1706)

年齢別 主な原因食物

各年齢群毎に5%以上を占めるものを上位5位表記 (アレルギー 65(7) 942-946. 2016(平28) 表1より一部改変)

誤食の原因食物(N=1228)

年齢別 主な原因食物

各年齢群毎に5%以上を占めるものを上位5位表記 (アレルギー 65(7) 942-946. 2016(平28) 表2より一部改変)

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食物アレルギーの経過

食物アレルギーを引き起こすアレルゲン食品として卵、牛乳、小麦の割合が多くなっています。その他、さばやいかなどの魚介類、バナナやキウイフルーツなどのフルーツ、大豆、ピーナッツ、そばなどがあります。これらのアレルゲン食品は食物アレルギーは子供に多く見られるのが特徴で、即時型食物アレルギーで食後60分以内に症状が現われ病院を受診した患者さんの厚生労働科学研究班の全国調査では、0歳がもっとも多く約33%で1歳までが50.7%と受診例の半数以上を占め、4歳以下の乳幼児が患者数の70%近くでした。年齢とともに受診例は減少していきますが、一方では20歳以上の成人も約9%みられました。成人の食物アレルギー患者も相当多数存在すると考えられます。

食物アレルギーの経過

子供に食物アレルギーが多いのは、成長段階で消化機能が未熟で、アレルゲンであるタンパク質を小さく分解(消化)することが出来ないのがひとつの要因と考えられています。そのため、成長にともなって消化吸収機能が発達してくると、原因食物に対して耐性(食べられるようになること)がつく可能性が高いのです。
卵・乳・小麦などは入学前に8割程度は反応を起こさなくなる「耐性化」がみられます。
ピーナッツ・魚介類・果実・そば・種子類のアレルギーは、耐性化しにくいアレルゲン食品とされています。それぞれのアレルゲン食品、重症度により個別に経過の観察が必要です。
また、幼児期後半以降(成人も含む)に発症した食物アレルギーは治りにくいとされています。

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アレルギーとは

食物アレルギーはアレルギーの一種ですが、そもそもアレルギーとはどのようなものなのでしょうか。
私たちの体には、細菌やウイルスなどの病原体が入ってきたとき、それらを除いて体を守る「免疫」という働きがあります。ところが、この免疫が食べ物や花粉などに過剰に反応してしまうことがあります。これを「アレルギー反応」と呼んでいます 。

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アレルギーの歴史

アレルギーといえば食物アレルギーの他に、花粉症、金属アレルギー等々が知られていますが、最近これらが大きく取り上げられているためか、アレルギーは近年発生した現代病の様に考えられています。しかし実際はどうなのでしょうか。アレルギーの歴史を振り返ってみると下表のようになります。

西暦紀元前 Hippocrates
(BC460?〜BC377?)
ギリシャ(医学者)
「喘息」の語を初めて使ったとされます。
Lucretius
(BC96〜BC55)
ギリシャ(医学者)
「One man’s food might be another’s poison(食物は人によっては毒になる)」といった食物アレルギーを示唆する記述があります。
1819年 Bostock
(1773~1846)
イギリス
アレルギーに関する最初の医学的論文として彼自身の体験である枯草熱に関して記載しました。
1902年 Richet
(1850〜1935)
フランス
イソギンチャク毒の研究において、最初は犬に少量の毒素を注射しても死ななかったが、後日同じ犬にそのごく少量を注射すると呼吸困難、下痢、下血を起こし死ぬのをみて、この犬が毒素に著しい過敏状態となっていることを知り、この現象をanaphylaxis(anaは無、phylaxisは防御の意味で、防御作用のない意味の造語)と呼ぶこととしました。
1903年 Arthus
(1862〜1945)
フランス
ウサギの腹部皮膚にウマ血清を繰り返し注射すると発赤さらに潰瘍が形成されることをみ、これを皮膚局所の過敏状態としました。現在、これはArthus現象として知られます。
1905年 Schlossman,
Finkelstein
牛乳による即時型アレルギーを報告しました。
1906年 Pirquet
(1874〜1929)
オーストリア(ウィーン大学小児科)
Allergieという概念を提唱しました。ここで、allosは正常の状態と違った偏ったもの、変じたものを意味し、これに作用を意味するergoを合わせた意味を持つ造語としてAllergieと呼びました。
1927年 稲田龍吉
日本
牛乳を飲むことによって発症するアレルギー喘息について記載しています。

(最新食物アレルギー:編著 中村晋 飯倉洋治を参照)

このように、アレルギーは人類の歴史上、古くから存在が知られていた長い歴史を有する疾患なのです。

監修・協力

大矢幸弘先生

大矢 幸弘先生

国立成育医療研究センター
アレルギーセンター長

国立名古屋病院小児科、国立小児病院アレルギー科などを経て、2002年から国立成育医療センター第一専門診療部アレルギー科医長、2015年に国立研究開発法人への改組を経て現在に至ります。小児アレルギー疾患(気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、消化管アレルギー)のガイドライン作成に委員として関わっています。

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