専門医コラム
グルテンやグルテンフリーについて学ぼう
山田 恒先生
兵庫医科大学 精神科神経科
小麦粉に水を加えてこねると、小麦粉に含まれるタンパク質であるグリアジンとグルテニンが結合して、グルテンができます。グルテンの持つ粘り気やもちもち感は、食感と美味しさを構成する重要な要素の一つで、パン、パスタ、うどんなどの様々な小麦加工食品に含まれています。また、グルテンは大麦やライ麦などの穀物にも含まれています。グルテンフリー食とは、一般的にはグルテンを含まない、または非常に少ない食事のことを指します。
グルテン不耐症はグルテン関連疾患のひとつで、グルテンを摂取すると、下痢、腹痛、頭痛、体のだるさ、不安、気分の落ち込みなどの症状が現れ、体調や気分が悪くなります。グルテンフリーにすることで、これらの症状は改善します。グルテン関連疾患には、他にセリアック病などの自己免疫疾患や小麦アレルギーがありますが、それらとはメカニズムが異なると考えられています。腸内でのグルテンに対する過剰な免疫反応によって炎症が起きて、腸の粘膜が傷ついたり腸内細菌が変化したりすることが症状の原因ではないかといわれていますが、詳しいことは明らかになっていません。有病率は欧米では0.5~5.9%と報告されていますが、日本では分かっていません。グルテン不耐症は、まだ分からない部分が非常に多く、診断基準なども定まっていません。
セリアック病とは、グルテンに対する免疫反応により自身の小腸の組織を攻撃して傷つけ、栄養が吸収できなくなる消化管の病気で、日本では稀な病気です。診断には血中の抗体測定や内視鏡検査などが必要で、専門の医療機関で行われます。小麦アレルギーでは、小麦を異物と認識し、排除しようと攻撃してアレルギー反応が起きます。小麦を摂取すると、かゆみ、じんましん、嘔吐、下痢、腹痛などが出現し、重い症状になると呼吸困難や血圧低下を伴うこともあります。吸い込む、触れるだけでも症状が出ることがあり、食べたあとに運動することで症状が現れるタイプのものもあります。
小麦を摂取することで体調や気分が悪くなるなら、一度グルテンフリー食を試してみてはいかがでしょうか。まずは約2週間、グルテンフリー食を続けてみて、症状の変化をみてみましょう。グルテンを完全に除くのが難しければ、朝食のパンをお米にしたり、昼食や夕食の麺類や揚げ物を控えたり、グルテンの摂取量を減らしてみてもいいかもしれません。小麦アレルギーにより症状が出ている場合もありますので、医療機関を受診して血液検査などでアレルギーの有無を調べてもらうことも考えて下さい。また、グルテン専門外来を開設している医療機関もありますので、そちらを受診してみるのもいいかもしれません。 欧米では、グルテンフリーの食事にすると、食事のスタイルは変えずに食品をグルテンフリーにすることが多いようです。そういったグルテンフリー食は、従来のグルテンを含む食品と比べて炭水化物と砂糖が過多となり、ビタミンや亜鉛、葉酸、鉄、カルシウムなどの欠乏が起こりやすいことが分かっています。一方日本では、いわゆる和食スタイル(白米、魚、肉、野菜、煮物、汁物)に変えることが多く、総摂取カロリーが減りやすく必要なカロリーが不足することがあります。グルテンフリーを行う際は、基本的には小麦以外の食品をバランスよく食べ、総摂取カロリーを減らさないようにすることが大切です。また、最近では小麦の代替品として、米粉、とうもろこし粉、大豆粉などを使用したパンや麺類なども市販されています。
グルテンフリー食は、もともとはグルテン関連疾患のための食事です。しかし、近年では健康的なライフスタイルとして、体重減少を促しメタボリック症候群のリスクを減らす食事と認識されていることが多いようですが、実はこれは誤りで、いわゆるダイエットの有効性は示されておらず、むしろ健康への悪影響を示す結果が報告されています。グルテン関連疾患がない健康な人に対するグルテンフリー食は現時点では推奨されていません。
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