食物アレルギーと向き合う人々

食物アレルギー専門医 大矢先生インタビュー

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 大矢 幸弘先生

今回は、Table for All 食物アレルギーケアの食物アレルギー情報を監修いただいているアレルギー専門医の大矢幸弘先生のインタビューをご紹介します。

監修・協力

大矢幸弘先生

大矢 幸弘先生

国立成育医療研究センター
アレルギーセンター長

国立名古屋病院小児科、国立小児病院アレルギー科などを経て、2002年から国立成育医療センター第一専門診療部アレルギー科医長、2015年に国立研究開発法人への改組を経て現在に至ります。小児アレルギー疾患(気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、消化管アレルギー)のガイドライン作成に委員として関わっています。

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食物アレルギーについての現状

 50~60年前から日本ではアレルギー疾患が増えてきていて、先進国では半世紀ぐらい前から増えてきています。最初の頃はぜんそくが主役で、それからアトピー性皮膚炎、そして現在は食物アレルギーが主役になりました。食物アレルギーがある意味パンデミックとは言いませんが、いわゆるエピデミックですね。
 食物アレルギーが急増したと認識されるのは21世紀に入ってからです。20世紀の終わりの頃はぜんそくやアトピー性皮膚炎が多かったですが、ぜんそくは治療薬の向上で入院する患者が激減し、亡くなる子供は数年前からゼロになっています。また、アトピー性皮膚炎も昔のように重症の患者は減ってきています。一方で、21世紀になって食物アレルギーは増えてきており、今がピークと思われます。

 食物アレルギーの患者数は調査の方法によってずいぶんと異なるので難しいですが、日本で行われた代表的調査のエコチル調査(日本で10万組の子供たちと両親が参加する大規模な疫学調査)によると、0歳児~3歳児で毎年調べていますが、乳幼児の約1割の方が食物アレルギーと思われる症状があり、医師から食物アレルギーと言われている人も1割弱います。乳幼児ではかなりの数の方が食物アレルギーを持っており、卵・牛乳・小麦などの主要な食材に対して陽性を示す人が多いのが現状です。

食物アレルギーの課題とは

 食物アレルギーは乳幼児が多いため、離乳期に重要な食材が食べられないという人がかなりいることが課題です。食物アレルギーは多くの種類があり、年齢が上がればたくさんの食材を食べるようになるので、ピーナッツやナッツ類、魚など様々なものが食物アレルギーの食材としてあがってきます。食物アレルギーの原因抗原(アレルギーの原因となる物質)はたんぱく質で、たんぱく質を含む食材はどんなものでも対象となります。

 また、年長児や学童になると果物などのアレルギーが増えてきます。果物そのもののアレルギーの人もいますが、カバノキ科の花粉による感作(アレルギー反応を起こす原因物質に対して免疫機能により抗体が作られること)を受ける子どもも増えていて、花粉の抗原と交差反応(ある抗体が、産生反応を引き起こした原因の抗原と別の似た抗原に結合すること)を起こす果物で症状が出る方が増えています。食べた時に違和感を感じ、やめることが多いのでアナフィラキシーを起こす方は少ないですが、中にはアナフィラキシーを起こす人もいます。このように、多くの人に交差反応による食物アレルギーが増えていて、それもまた新たな課題となりました。

 乳幼児はまだ花粉の感作が少ないですが、家族などでよく食べる食材は子供が暮らす環境中に含まれています。調理や食事をすると、その食材が空中を舞っているので匂いとして感知できます。そのため、子供の寝具にあるほこりを集めて抗原分析(アレルギー反応を起こす原因物質の分析)をすると、その家庭で食べている食材の抗原が検出されます。赤ちゃんがまだ食べたことのない食材でも肌にしっしんがあると、寝具などにあるほこりに含まれた食材が皮膚につく。これが繰り返しつくと皮膚に炎症があった場合そこから吸収されていつのまにか感作を受けてしまう。本人に一回も食べさせた事のない食材でも、急に赤くなる、具合が悪くなるなどが起こるのは 知らないうちに経皮感作(しっしんなどがあり、アレルゲンが皮膚を通過して、表皮や真皮に侵入して免疫細胞と反応して感作が起こること)を受けた結果なのです。

食物アレルギーの解明は発展途上

 アレルギーは、昔はお母さんのお腹の中にいるときや授乳中など、お母さんから移行したものでおきると思われていました。21世紀になり食物アレルギーの患者が増えたのは、経皮感作を受ける現象が当時わからなかったので、良かれと思って原因食物をなるべく遅らせる指導を行ったが、遅らせる対策が普及すればするほど食物アレルギーが増えてしまいました。この現象が先進国で世界的に起こってしまい、アメリカでは小児科学会が2000年に卵・牛乳・魚・ナッツ類を食べさせ始めるのを遅らせましょうというガイドラインを出し、そのガイドラインが普及するに従って食物アレルギーが増えてしまいました。

 そのガイドラインは2008年に取り下げになりましたが、アレルギーが増えて、なんとかしなくてはと思いやったことが逆に裏目に出てしまったのです。ようやく今になってみて、なるべく遅く食べさせることや念のため除去することが逆効果であるとわかってきて、ピーナッツが最初でしたが食べさせ始めを遅らせるのではなく、早く食べ始めた方がピーナッツアレルギーが減るということがわかってきました。とはいえ、今までとは180度逆の方向へ向かっており急に方向転換するのは難しいです。今まで除去しましょうと言っていたのに早く食べましょうと話をするのは非常に怖いことで、医師も患者さんも試行錯誤して慎重にやっていくことが多いですが、大きく舵を切り替えた小児科医にかかっているお子さんたちは食物アレルギーがほとんど発生せず、減少しているのです。その流れが全体として普及されれば乳幼児の食物アレルギーは激減して行くことが期待されます。

食物アレルギーの治療法は?

そして、今は過渡期なので食物アレルギーになってしまった方がいます。食物アレルギーになってしまったらどうやって治すかが課題です。そして今経口免疫療法(専門医師の管理の下で連日原因食物を少しずつ食べていくことで、原因食物が食べられるようになるという治療法※経口免疫療法は必ず専門医の指導のもと行ってください。)という食べさせて治す方法があります。患者さんが青天井で食べられなくても、例えば1~2gまでなら食べられるといった場合、それより少なく、反応を起こさない量で食べていれば、そのことで免疫寛容が起こり少しずつ安全に食べられる量が増えてきます。必要最小限の除去をして食べられるところまでは食べて、徐々に閾値をあげて治していく流れに変わりました。

食物アレルギーを防ぐには?

食物アレルギーになってしまったお子様は、乾燥肌や皮膚炎湿疹など肌のトラブルを経験した方が多いです。肌のトラブルを経験する時期が早いほどリスクが高いので、アトピー性皮膚炎が完治していない人は、まずアトピー性皮膚炎をしっかり治療し治すことが大切です。まだ食物アレルギーになっていない生後数か月の赤ちゃんは、しっしん、肌荒れなどでかゆそうにしていたらリスクが高いので、なるべく早くしっしんを治して、経皮感作を受けないようにすることが大事です。

 離乳食を開始する場合は、それまで肌のトラブルが全くない場合は極めてリスクが低いので、離乳支援ガイド(授乳や離乳の望ましい支援の基本的な事項を共有して一貫した支援を進めていくためのガイド)に従い普通に始めても大丈夫かと思います。しっしんを経験した赤ちゃんは経皮感作を受ける可能性があり、リスクがあるので少量から開始していくこと。毎日量を増やしながら、少量から開始していくと急にアナフィラキシーを起こすことがなく、安全に増やすことができます。しっしんなどの経験がある方は小児科の先生と相談して行うといいです。日常生活を送る上での工夫としては、①食材の食べ始めは少量から慎重にスタートすること②お肌の治療はしっかり行うこと、その2つが食物アレルギーの予防や治療のポイントです。

食物アレルギーをお持ちのご家族に向けたメッセージ

食物アレルギーを持つご本人ご家族は、アナフィラキシーのリスクと向き合っているので大変だと思います。エピペンという自己注射液があり、アナフィラキシーを起こしたときは救命に必要です。患者さんは処方してもらっていると思いますが、外食時などのリスクがあるときは必ず忘れないように持って行ってください。そして、誤食をしないように気をつけてください。微量でも起こる方の場合、調理器具に含まれていた場合やコンタミネーション(混入)してしまった場合でも事故になります。

 また、子どもの食物アレルギーは治しやすいものです。経口免疫療法が普及し、少量ずつ食べていると閾値が上がってきます。焦ってギリギリの量で行う人がいますが、それはやめてください。どのぐらいのスピードで改善するかはお子さんによって違うので、あの友達が一年で出来たからうちの子も治るだろうといった考えはやめてほしいです。あくまでもお子さんのペースに合わせて焦らず安全に行ってください。ほんの少しでも食べていれば閾値は上がります。症状・しっしんが出るほどの量は食べさせすぎです。我慢して食べれば治ると乱暴に言う人がいますがやめてください。無理に食べさせると子供がその食材を嫌いになってしまい、免疫的アレルギーだけではなく心理的アレルギーを作ってしまいます。免疫的アレルギーよりも心理的アレルギーを治す方が難しいので、あくまで心理的アレルギーを作らないことがポイントです。

 心理的アレルギーがあると、負荷試験をやってせっかく食べられるようになっても、その後食べたくなかったらやった意味がなくなってしまいます。安全な量を楽しく食べるような工夫をして欲しいです。卵や牛乳・小麦などありふれた食材は加工して工夫がしやすいので、毎日本人が苦痛なく食べられるものを作ったり探したりして与えて欲しいです。楽しく安全にが食物アレルギーを治す上で一番大事なポイントです。これをぜひ守っていただけると嬉しいです。自然に治っていくことで心理的アレルギーにならずに食べられる種類も量も増えていく、安全に楽しく希望を持って治療に取り組んでいただきたいと思います。

食物アレルギーについて日本ハムグループに期待することは?

 抗原検出キットなどいろいろな有用な商品を提供していただいています。食物アレルギー対応商品は米粉パンなど色々ありますが、世の中には小麦を使用していないと言ってグルテンが入っているなど問題のある商品もあります。そのような商品で時々事故が起こります。しかし、ニッポンハムグループの商品はそういうことがなく、管理が徹底しているところで、安心して食物アレルギーの方が摂取できる商品を提供していただいています。色々な食物アレルギーがありますが、食物アレルギーの方が安心して食べられる食材を提供していただいているので、さらにバリエーションを増やしていただけるとありがたいです。

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